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septemberのミステリー

(杉村裕史)



 外国語を学んでいると、不可思議な単語や文法によく出会う。言葉なんだからそのようなものだと諦めるしかないが、それでも何かの拍子に、あっそうかと得心することもたまにはあり、それが醍醐味となる。


7=9

 フランス語の数字7(sept)が9月(september)の綴りの中に含まれていることに気づいたのは、かれこれ35年以上も前の話である。私淑する大先輩から、昔のフランス人が9月のことをフランス語で7reと書いていたと教わった。この符号は謎のままだった。


暦法の今

 ヨーロッパから伝わり今では世界中で使われている西暦=グレゴリオ暦は、それまで使われていたユリウス暦のずれを修正したものとして知られている。


閏年はなぜ2月?

 ローマ時代1年の始まりは3月、春が1年の始まりだったのである。それ以前の、1年が304日であったローマのロムルス暦は、農業に関わる10の月しか名前がなく、残り2ヶ月は月の名がなかった(サイト:ニッセイ基礎研究所)。1年は10の月からなり、3月が1月、4月が2月‥‥12月が10月だった。農作業のない1月と2月は名前がなかったが、ロムルスの後を継いだローマ皇帝ヌマが、ロムルス暦の後に、2ヶ月を加えて名前をつけて、1年を12ヶ月とし、また、1年を355日とした。ここで、2ヶ月がプラスされ、旧1月が3月となり、7月が9月となったわけである。かつて名前のなかった1月と2月にローマ神の名前(後述)がつけられ、そこに余っていた日数を付け足したことで、2月は1年の終わりの月だったから、残りの28日が割り当てられた。


ユリウス暦 

 当時のローマ人は、太陽が南中する時刻を研究しているうちに、1太陽年は、365.2422…であると計算していた。この端数の0.2422日が閏年の元となる。0.2422日x4=0.9688日となり、4年に一度これを1日と見なして閏年を設けて暦のずれを修正した。これを定めたのがローマ皇帝ユリウス・カエサルJulius Caesarであり、1年を365日として4年に一度の閏年を設ける

暦を、彼の名をとってユリウス暦と呼んでいる。(下記「7月」の項を参照)


グレゴリオ暦

 ユリウス暦開始から時が経ち16世紀にもなると、季節が10日ほどずれてしまった。そこで当時のローマ法王グレゴリオ13世によって、当時の有名な数学者・天文学者のクラビウスを中心とする法王直属の委員会が考案した暦を制定した。これにより、4年に一回の閏年が、400年に3日閏年を廃止することによって、3300年に1日のズレになると見事に修正されたわけである。

 つまり、4年に一度、09688日を1日とすると、1一09688=0.0312日のずれが残る。これを100倍すると3.12日となり、400年に3日増えてしまう。だから、100の倍数で400で割れない年は閏年にしないという暦法を制定した。例えば、1600年や2000年は閏年だが、1700年、1800年、1900年は閏年ではなかったし、2100年も閏年ではない。ローマ人はまさに天才である。


7月

 7月の名は、ローマ皇帝ユリウス・カエサル Julius Caesar に由来する。カエサルは、4年に一度の閏年(365日→366日)を設けて暦法のずれを改定した。この功績を讃えて、次の皇帝アウグストゥスが、カエサルの誕生月を「カエサルの月」と命名した。(カエサルは当時は5月生まれであり、つまり5月が後に7月の名前になった)Juliusは、フランス語でJuillet(英語はJuly)と変化した。ちなみにラテン語の7月は現在の英語の9月septemberと同じ綴りで、発音はラテン語で[セプテンベル]であった。フランス語のseptは[セットゥ]と p を発音しない。ならば p をとってしまえ、とはならない。p をとってしまうと、7の由来がわからなくなるからである。


 

8月の名は、ユリウスの次の皇帝であるアウグストゥスに由来する。アウグストゥスは暦の改訂を行い、8月に一日を追加して31日としたことで知られる。これを讃えてのちに8月がアウグストゥスの月となった。(Site:Veryutile)Augustusは、フランス語のAoust→Août(sが脱落した後に ^ をつけた)と変化して、英語ではAugustとなった。


ローマ神

 1月から6月まではローマ神話に由来する。(Site:Portail lexical)

1月:ラテン語の januarius、ローマ神のヤヌス Janus(門の神、1年の始まりを司る)に由来。

2月:ラテン語の februarius (「浄化」の意味)。生と死を司るエトルリアの神の名に由来。

3月:ラテン語の martius (「軍神」マルスの月)に由来。

4月:愛の女神であるギリシャの女神アフロディーテー Aphrodite ← aprilisに由来。

5月:春の豊穣を象徴するローマの女神マイアに由来。農業暦では、種まきの時期を示す。

6月:愛と結婚の象徴であるギリシャの女神へーラーのラテン名ユーノン Junon に由来。「ジューンブライド」june bride の謂れもここにある。カエサルの暗殺を図った人物ブルータス Junius Brutus に由来の説もある。

9月 (旧7月)は、ラテン語7の septem に由来する。、

10月 (旧8月)は、ラテン語8の octoに 由来する。私たちはタコの足が8本でオクトパスだと知っている。

11月 (旧9月)は、ラテン語の9を表す novem に由来する。

12月 (旧10月)は、ラテン語の10を表す decem に由来する。私たちは、1デカが10倍、1デシが10分の1であることを知っている。


「夜」のトリビア


8=夜

 これまた随分以前から謎に思っていたが、決定打とはならない間でも、手がかりの一つにはなる。英語のeightとnight、そしてフランス語のhuitとnuitの類似の謎解きのはじまりである。

(Site: Nuit : une curiosité étymologique 15 septembre 2020)

Claude Thomas氏によると、多くのヨーロッパの言語においては、8の数字の前にnを置くと「夜」という言葉になるという。

英語 : night = n + eight

ドイツ語 : nacht = n + acht

スペイン語 : noche = n + ocho

イタリア語 : notte = n + otto

ポルトガル語 : noite = n + oito

ギリシャ語 : Nýchta= n + októ

フランス語 : nuit = n + (h)uit* *

なぜ n + なのかは依然謎のままである。

 11世紀の終わりには、フランス語では8が uit と書かれていたが、当時アルファベットの u と v の区別が難しかったので、[ヴイトゥ]と読まれないようにhを足して[ユイトゥ] huit と読ませるようにした。

 どうやら、午後8時を夜の始まりとしたようだ。


 日本語の「夜」という漢字は、白川静『常用字解』によると、にんべんに夕を組み合わせていて、人の脇に夕月が現れる時間を表している、という。なんとも面白い。


 ウィキペディアによると、古代インドの神話では、夜の女神ラートリーは太陽の母親であり、毎夜のこと太陽を身ごもって大切にはぐくみ出生させるが、太陽が分娩されると同時にラートリー(夜)は消えなければならない。

 ギリシャ神話でも、夜ニュクス Nyx は原初の時にカオスから生まれた偉大な女神で、自分の兄弟にあたる地下の闇エレボスErebos と結婚して、昼の女神ヘーメラー Hemera を産んだ。

 フランス語では、夜は la nuit で女性名詞、太陽は le soleilで男性名詞である。夜が母で、生まれたこどもが男の子太陽であるとは、単なる偶然であろう。ドイツ語では、夜nachtも太陽sonneも女性名詞であるから、名詞の性は面白い。

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